2014年8月25日月曜日

7 一言・戯言・空想・妄想

―ゴルフ―


35歳ころ定期的にゴルフに関わる状況ができた。多くの理論派ゴルファーと同様、スイングの理論解析を試みた。生活の全ては掛けず(本業は破綻していない、一応)、余暇の全ても掛けなかったが継続的に20年取り組んだテーマ。
「ミレニアム問題」や「フェルマー問題」は数学分野の超難問グループに含まれる。数学の超難問群は一般人には問題の意味さえ理解困難だが、「フェルマー問題」は中学生でも意味を理解できる問題であった。運動神経に少し自信のある理論派にとって何とかなりそうに思えるスイング構築は、解決に長年月の数学の進歩を要した「フェルマー問題」と同類に思える。
分からない者にとって「スイング解析」、解き方を忘れた「大学入試の数学」、「フェルマー問題」は(客観的なレベル差とは無関係に)単一群に属する。
その名称:「一見、何とかなりそうな解答方法が分からない問題群」。


―「問題:ゴルフスイング(85/白)」―


「問題:ゴルフスイング」の解答は1ラウンド72打数のスイングレベルに対応すべきであるが、{プロ、シングル、アベレージ、ビギナー}ではラウンド目標は明らかに異なる。それぞれのスイングプログラムのコードも、バグの出現頻度も、演算速度も多種多様であろう。
一般問題としての「問題:ゴルフスイング」の体裁は不完全であり、目標のスイングレベルを明示することが望ましい。
「問題:ゴルフスイング(スイングレベル)」
目標レベルの提示が{シングル、アベレージ、ビギナー}では具体性に欠けるのでラウンド打数を指標にするのが実際的であろう。もっともラウンド打数はスイングレベルとラウンド戦略、アプローチ、パターなどの総合的な結果であるから必ずしもスイングレベルに対応しないが、一応の目安にはなる。
体力や運動神経が平均的な普通のアマチアが、一応納得できるラウンドを「白ティー使用の85打数ラウンド」と想定した場合、
「問題:ゴルフスイング(85/白)」
が取り組むべき問題となる。解答に要求される理論精度は自然科学や数学分野の要求レベルとは根本的に異なり(極論すれば)科学的に正確である必要はない。ゴルファーが適当に理論を利用した結果、そこそこ納得できるスイング構築ができればよいのである。



―「4軸構造」―


 「問題:ゴルフスイング(85/白)」に対する一つの解答である。
想定している読み手:小学校時代は運動能力の良いグループではあったがトップには届かず、中学~高校と体育会系の運動部には所属しないで大学では同好会の運動サークルで楽しんだ大人。
想定している球筋:すべてのショットでストレート。
想定レベル:まれにハーフ30台がでて、50~100ラウンドに一度70台がでるかも知れないスイングレベル。
目標ラウンド:
白ティー使用のハーフラウンドの目標は4ボギー、1バーディーの39打。
2ホール毎で1打の余裕。ストローク8回に1回のミスが許される
・・・ダボは打たないようにしよう!
目標ショット:
ドライバーショット:200ヤード先の20ヤード幅のフェアウェー。
アイアンショット :150ヤード先の20ヤード幅のグリーン。
パターの許容範囲 :ボール(4.3㎝)の2倍以上のホール(10.8㎝)。
見方によればなんとも大らかな条件ではあるが、実践ラウンドでの達成は難しい。



―スイングプログラム―


 ゴルフスイングを{ホーム~テイクバック~トップ}、{~ダウンスイング~インパクト}、{~フォロー~フィニッシュ}の3相・7ブロックに分けた。
ゴルファーAがクリアできるブロック間の連結部をゴルファーBがクリアできない現象は一般的にみられることで、AとBのスイング構築過程を含むゴルフ歴や運動能力の差に起因する。
スイングプログラムはブロック間で円滑に連動することが必要であるが、その成否はプログラムコードの質とゴルファーの運動能力との総合的な結果による。運動神経の良いゴルファーによるプログラムの評価はプログラムコードの弱点を潜伏させ普通のヒトには使いこなせないスイングプログラムを可とする場合がある。
「問題:ゴルフスイング(85/白)」の解答としての「4軸構造:スイングプログラム」はゴルフ感が蓄積されてない(普通の運動神経の)ビギナーにとって有用か否か・・・がポイントであろう。



―ドライバーによるスイング構築―


「4軸スイングの構築」にはドライバー練習がお奨めである。
その理由
ⅰ)シャフトが長いためシャフトのタワミを作りやすい。
ⅱ)波としてのタワミが近位振動節~ヒール間を伝播する時間が(他のクラブより)長いため、{クラブ姿勢+身体運動}の制御に余裕がもてる。
ⅲ)クラブ重心位置~グリップ間が長いためスイングフェーズに対応した適正なクラブ重心支持様式が必要(=スイングにゴマカシがきかない)。
「到達目標;ゆったりフルスイングで150ヤードのストレートボール」
「4軸スイング」の第1関門は「トップ姿勢」ではあるが、きっと面白くなさそうなので実際的な第一歩としてはインパクトジャイロを意識した打球練習がよいかもしれない・・・



―リバース・スイングドリル―


 左打ちドライバーのスイング練習をスイングプログラムの弱点の検証法として利用した。
本来の右打ちゴルファーは左打ちのゴルフ勘に乏しいためリバース・プログラムコードにギャップや弱点が存在した場合、それを左打ちで安定処理することは難しい。リバース・プログラムが偶然に連動することは起こりえても「一定確率でのスイング再現性」は期待できないのである。リバース・スイングドリルは右打ちゴルファーが(普通に)処理できるため潜伏してしまう可能性をもつ「プログラムコードの軽いギャップや小さな弱点」をも明らかにする。
レベル差のある複数のプログラム間には本質的にギャップが存在するので、スイングプログラムの追究作業はエンドレスに出現してくる「プログラムコードのギャップや弱点」との戦いでもある。


スイング理論の評価―


 日本舞踊のお師匠さんは弟子に「お手本」を踊って見せる。スキーのインストラクターは生徒に滑って見せる。提示されたパーホーマンスが上質だと弟子や生徒は納得し信頼する。
フィギアスケートではスケーティングの完成度が点数として評価され、ゴルフでは結果としてのスコアのみが評価される。スコアから算出されたハンディキャップはゴルフスイングの完成度の目安ではあるが、完成度そのものを担保しない。
インターネット上でのスイング理論やレッスンサイトでは「情報発信者自身のスイングを画像で提示」することが「説得力の決め手」だろう。
・・・「4軸構造」の画像モデルはすべて著者自身である



―3次元座標・個別座標―


 他人のスイングを評価する場合には「3次元座標内の(他人の)スイングを鳥瞰できる安定視点」を選択可能であるが、自己のスイングでは「客観的な安定視点」の選択は難しく基準目線を頭部においた評価にならざるを得ない。
外後頭隆起を原点にした個別座標は評価基準系の1つであり、基本コンセプトは「個別座標内に投射したスイング写像を(スイングの)安定性と再現性の確保に利用すること」である。
個別座標のスイング作業では圏を設定し、適当な投射平面を選択し、関心領域(点)の位置関係を作図した写像群が連続して出現するが、投射平面や写像上の関心領域の位置関係などには本質的な意味はない。
写像の必要条件は
「1写像と現実のスイングを細分した1シーンが1:1で対応すること」
「写像を構成する選択平面、関心領域(点)の位置関係に安定した再現性があること」
「写像群の連続性が一意的に決定されること」
である。



―アドレスの踵―


 アドレス時に両足踵線、両肩の線を目標方向にセットすることは必然か?
「ボールが目標方向の運動ベクトルをもつこと」
「クラブフェースがボールに目標方向の運動ベクトルを与える仕事をすること」
「ゴルファーがクラブ重心を(インパクトで)目標方向に振ること」
は演繹的にほぼ同値であるが、
「肩幅に開いた両足の踵線を目標に合わせること」をどう展開しても
「ボールが目標方向の運動ベクトルをもつこと」には行き着かない。せいぜい「両足の踵線で目標方向を確認できる気がする」のである。
ゴルファーAのスタンス形態は、Aの体格・骨格の特徴とスイング構築作業の積み重ねによってAのスタイルに収斂していくと考えられる。
スタンス形態は一つの結果でありスイング構築のスタートには不向きである。換言すれば、体型・骨格の検討なしの「両踵を平行にしたスタンスからのスイング構築」は「感を頼りのバクチ」に近い暴挙である。



―慣性モーメント―


 ゴルフスイングで注目されている慣性モーメント
慣性モーメントとは、物体の回転のしにくさを表す量である。正確には回転運動の変化(回りだす、止まる)のしにくさを表す。質量のモーメント・・・実感がわかない!
回転運動は個別座標での認識が難しい運動であった。慣性モーメントを考えながらクラブの回転運動を把握できる能力は一種の天才なのだろう。複数の慣性モーメントと体と肩の回転、腕の動き、体重移動、右肘と腕の使い方などが協調する必要性が強調されているが、慣性モーメントという概念をスイング構築に利用する具体的な方法論は確立されていない。
方法論が成立していない状況で、慣性モーメントをスイング構築に組み込もうとすること・・・凡人にはお勧めできない。
慣性モーメントという物理的概念を理解することとスイング構築にその概念を利用することとは別の事象である。



―複数作業の同時進行―


 専門的な訓練をつんだ人(例えばプロドラマー)は左右の手足で同時に独立した仕事が可能であるが、一般人が同時進行できる具体的な作業は精々2つである。
訓練すれば2つの同時作業に軽度の情緒的なイメージは追加できるかもしれないが、そのイメージが強くなりすぎると仕事手順がとんでしまう。スイング時に確実に意識できる項目は少ない。
「箇条書きしたスイングの注意点メモはラウンド後に思い出すためにあったのか?」 
「憎いライバルの冷笑が頭に浮かんだ途端、私のショットは悲惨街道まっしぐら!」



―スイングテンポ―


 筋肉の収縮速度はその大小を問わず一定であるため「スイングテンポがゆっくりであること」と「スイングの作業過程が細分化されていること」とは同値である。完成度の高いゆったりしたスイングは細分化されたスイングプログラムで構成される。
「超早スイング」:各姿勢間での連続性に乏しいアドレス、トップとインパクトで構成。
「ゆったりスイング」:各姿勢間の連続性が保たれたホーム、バックスイング、トップ、ダウンスイング、インパクトとフォロースルーで構成。
ではあるが・・・
一般的に、ある未修得運動の「運動プログラムの反復練習」では大脳皮質が支配する随意運動系(古典的な錐体路)でのプログラム・トレースをへて脳幹投射の運動系(古典的な錐体外路)での運動実行へ転換がおこる。
プログラムが「洗練された簡潔なプログラム」であれば急速な経過で目的運動が習得され、「雑念のない静かなパーフォーマンス」が成立する。
「ゆったりスイング」の各姿勢間の連結プログラムが洗練されたプログラムであれば「静かなスイング」に通じるのかもしれない。
ゴルフスイングは「芸事に近い立ち位置」にあって
「クラブをあげて、下ろすだけ」
「そこにあるボールを打つだけ」
が一つの到達点のような気がする・・・・・路ははるかに遠い Ф



―「インパクトは写像」―


 ボートのオール、ボートの舵、クラブは一群をなす。基本構造はポールの先端に作用板が付いた道具で並び順は{オール、クラブ、舵}。
オールはポール先端の直前方に付いた作用板で水を掻きボートの推進力を得る。作用板の仕事様式;ポールのタワミを利用して水を掻いている。大きな力がでるが安定性に欠けそう。
舵はポール先端の直角に付いた作用板で水流を制御してボートの進行方向をコントロールする。作用板の仕事様式;ポールをネジルことで作用版の位置・姿勢を制御している。制御の安定度がポイントのようだ。
ゴルフクラブはポール先端に斜めに作用板が付いていてオールと舵の中間の形態をしている。機能特性は{力、制御}といえるか・・・
・・・文脈発現:「インパクトは写像!?」  
インパクトされたボールは与えられた運動エネルギーに対応する距離を打ち出された方向へ飛行するからボールの飛行現象の要素は
{距離、方向}である。スイングインパクトを一種の演算とみなせば
インパクト:{クラブ∥力、制御}→{ボール∥距離、方向}
がめでたく成立するのであった。



―タイトル:「4軸構造」―


 「4軸構造」のタイトルは適当か? 4軸は補助軸を意味しているが、内容的には脊柱軸のほうがより重要である。
発表論文のタイトルは内容を表現していることが大切だが、少しミステリアスでチャーミングであることが望ましい・・・と思う。
5、6、7軸では語感が重く読むまえに嫌になってしまいそうなので「4軸構造」にきめた・・・・・♪



―龍玉―


☆1;身体条件としての“柔軟性”の確保
柔軟性:脊柱、胸郭、肩甲骨の可動性が不足するとスイング構築が不自由
筋力アップは努力目標:筋力が弱いと飛距離は望めないが筋力にあったクラブ選択でスイング構築は可能
☆2;平衡バランスを安定させるための深部感覚訓練
位識点シフトによる姿勢調節反射を利用した僅かな体重移動→体重に比して軽いクラブの力学バランスをとるポイント
☆3;クラブの物理的特性(重心、シャフトの振動節)の理解
☆4;“トップの切り返し”の作業構造の理解
☆5;シャフトプレーン上の”シャフトシナリ動態”の理解
☆6;“インパクト” の構造理解
☆7;信念 & 努力・根性・気合~♪♪

2014年8月12日火曜日

理論背景

6・1 スイング解析


ゴルフスイングの解析にはゴルファーの身体運動とクラブ運動の検討が必要です。
身体運動では人体構造(骨、筋肉)や運動生理などの理解が重要です。
クラブ運動ではヘッド軌跡に視線を奪われがちですが、力学的にはクラブの重心運動が基本です。クラブ重心は(いわゆる)スイングプレーン近傍で円運動に類似した一種の平面曲線*を描きます。
(注)平面曲線*:平面上の曲線、XY平面ではy =F( x )で表される点の軌跡。
数学分野では3次元座標内に同次方程式 [F(x y z)=0]で与えられる曲線の性質を調べる手段として曲線をX-Y平面、Y-Z平面、X-Z平面に投射し特異点を調べる方法が有名です。
「4軸構造」では個別座標系に4本の補助軸を設定しクラブ重心や内肘など関心点の運動指標に利用します。適当な平面上に軸と関心点の運動軌跡を同時投射することで基準構造と関心点の位置関係や特異点*の把握が容易になります。
(注)特異点*;基準構造と運動する関心点が投射平面上で一致ないしベクトル反転をおこす位置


6・2 回転運動の力学バランス


クラブ重量はゴルファー体重と比較して軽いので
①クラブ運動と身体運動の力学バランスをとる場合、僅かな体重移動が必要である。
②ゴルファーが大きく体重移動してしまうと、重量の軽いクラブ運動では力学バランスがとりきれない。


6・3 打球作業と飛球現象


 {打球作業、飛球現象}の1セットは打球でスタートし、ボールが目的エリアに静止して終了します。
打球直後のゴルフボールは運動エネルギー( e)、運動ベクトル(Vb)とスピン(回転)を獲得します。スピンは飛球線を修飾しますが、基本的には獲得した運動エネルギー( e)が大きいほど飛距離がのびます。運動ベクトル(Vb)は水平成分(方向性)と垂直成分(打ち出し角度)に分解できます。水平成分条件は全ショットで要求されますが、垂直成分条件は眼前の立ち木やバンカーの縁など特殊事情の際に要求されます。水平成分がより重要です。
右→左の水平直線を目標飛球線とした場合、「ヘッドの作用点がボールの右端を通る南半球の子午線上に作用すること」が「(Vb)の水平成分が目標線に一致する」ためのボール側条件です。ヘッドの作用点は必ずしもスイートスポットである必要はありません。スイートスポットを利用することは大きな運動エネルギー( e)を獲得するためのクラブ側条件です。
「ボールの運動エネルギーを最大にし、ボールの運動ベクトルの水平成分が目標線に一致する打球構造」がスイング構築の基本です。


6・4 グリップの把持と制御


ボールヒットではシャフトのシナリ・モドリを利用します。シャフトのシナリ・モドリ運動は近位振動節(◆)を支点とするため、グリップによる適正位置での(◆)固定が必要です。
実際のスイングではグリップ位置は経時的に変化しますから「グリップの移動と近位振動節の姿勢制御」を両立させることになります。
グリップ移動の背景にある「スイング構造の理解」がポイントです。
{ホーム~トップ};トップのクラブ位置を実現するためのグリップ移動。
{ダウンスイング};クラブ重心(◎)を加速しシャフトに(-ω)波を形成するためのグリップ移動。
{インパクト}; (◆)を位置固定する作業にともなう最小限のグリップ移動。
{フォロー~}; (◎)のもつ運動エネルギーを位置エネルギーに変換しフィニッシュのクラブ位置へ移行するためのグリップ移動。
インパクト時のヘッド側シャフトのシナリ・モドリ運動は(◆)対側のグリップエンド側の振動と{作用・反作用}のセットになります。((◆)の位置固定)&(グリップエンドの振動)を両立させるグリップが必要です。



6・5 脊椎運動様式


 ヒトの脊椎は重積する脊椎骨群で形成され、隣接する椎骨は関節を構成します。この関節は前後・左右方向の屈曲型と(脊椎間でネジレを形成する)回転型の2種類の関節機能をもちます。
関節は基本的に「関節の遊び*」をもちますから重積する脊椎骨群の「関節の遊びを加算すること」で、脊椎の左右方向の平行移動が可能です。スイング作業では「関節の遊びの加算」による「平行移動」を利用しますが、能動的には回転型関節機能の利用に限定します。屈曲型関節機能を作動させると対応脊椎領域が「側湾」して頚椎の頭部姿勢調節機能に悪影響を与えるからです。
(注)関節の遊び*;車ハンドルの遊びの様に、(関節)機能筋に入力してから関節が機能し始めるまでの時間的・空間的な余裕


6・6 姿勢バランスの中枢


ヒトの姿勢バランスをコントロールする平衡感覚(回転加速度)の受容体は両側内耳に存在する三半規管です。
それぞれの三半規管は(3次元座標の)X、Y、Z軸に対応可能な3つの半規管が90度の角度で傾いた構造です。X軸に対応する半規管は水平方向の、Y、Z軸に対応する半規管は重力方向の回転運動を感知可能ですが、水平方向の情報処理が最も得意と考えられます。
左右の三半規管は対称型なのでヒトの平衡感覚受容体は総体的に
{ F(x y z)+ F(-x y z)}
と表され、水平レベルの情報の左右差がより明確になるからです。
安定した姿勢バランスをとるためには左右のX対応半規管を水平に保つことが有効です。
身体運動は脊柱を介して頭部姿勢に何らかの影響をあたえますが、頚椎群はその影響を緩衝する機能をもちます。頭部を水平に保つため頚椎群の「平行移動+回転運動」での対応が基本で、頭部・頚椎群の「側湾」は禁忌です。
「平行移動+回転運動」ではY、Z半規管の垂直方向と、情報処理能力の高いX対応半規管の水平姿勢を保つことが可能ですが、頭部・頚椎の「側湾」姿勢はX対応半規管が傾き水平レベルの情報処理が難しくなるからです。
視覚情報や深部感覚情報は脳で処理されるので姿勢バランスの中心は頭部にあります。具体的には個別座標原点の外後頭隆起がバランス中心です。
ヒトは他の霊長類に比して前頭葉が発達し前方が大きい頭蓋骨をもっています。頭蓋骨は脊柱(頚椎)と後部で接続していて頭部の直立バランスをとるためには背中高位から頭蓋骨後部に分布する筋肉群で頭部を持ち上げ、かつ体勢変化に伴い筋力方向を調整する必要があります。また脊椎動物の進化過程では大脳皮質が前方に向け発達してきたと考えられます。頭蓋骨は段階的に前方へ大きくなりますが、進化過程上の全生物で頭部バランスが保たれることが必然です。後頭部にバランス中心を設定する理由の一つです。



6・7(1) 頭部の位置固定(1)


頭部の位置固定は個別座標系を安定させ身体の平衡バランス維持に有効ですが、ゴルフスイングは脊柱運動を介して頭部姿勢に影響します。
頚椎群(+上部胸椎群)はスイングの頭部姿勢への影響を軽減する一種の緩衝装置ですが、完全制御は難しいので(緩衝装置の)能力に応じて「妥協点」を設定することが必要です。
個別座標系{原点&基準ベクトル}からみて
0系(理想型):原点&基準ベクトルの位置固定
         頚椎群など緩衝装置によるスイングの頭部姿勢への影響を完全制御。
1系:原点&基準ベクトルの平行移動
         頚椎群中心の椎間関節の「遊び」を集積した平行移動。
2系:原点の平行移動&基準ベクトルの{平行移動+水平回転}
         1系機能+頚椎骨間関節の回転運動による対応。
3系:原点{平行移動+上下動}&基準ベクトル{平行移動+水平回転+上下動}
         2系機能+胸椎群による水平移動。
0系座標が理想ですが、現実的には頚椎群の緩衝能力に応じて1~3系座標を選択することになります。1~3系座標はそれぞれが可換であること、平衡感覚受容体である左右の三半規管の水平姿勢を保つことが条件です。
頚椎群や胸椎群の側湾機能によって3次元座標での頭部位置を固定することは「個別座標系」を歪ませ0系座標との距離感・位置関係が不安定になるため禁忌です。


6・7(2) 頭部の位置固定(2)


自分の脊椎骨群の柔軟性を理解することが重要です。
青少年期に(何らかの運動を通じ)身体を作らなかった普通の大人にとってトップゴルファーの「頭部移動の少ない華麗なスイング」は「危険な誘惑」です。
1~2系座標の選択は肩関節周囲を含めた胸椎群、頚椎群の十分な柔軟性・可動性が条件ですが、柔軟性・可動性に乏しい普通の大人がスイングの全行程で1系座標を選択することは「絶望系座標」への第1歩となる危険があります。
絶望系座標:原点は位置固定、基準ベクトルは変位、「頚椎・胸椎の側湾機能」で頭部位置を固定した座標
普通の大人のお勧めレシピ
{ホーム~テイクバック~トップ}:1~2系座標を選択。
{トップ~ダウンスイング~インパクト}:できれば1系座標のみで処理。
{インパクト~フォロー~フィニッシュ}:無理をしないで1~3系座標から選択。


6・7(3) 頭部の位置固定(3)


 「片側股関節位置固定型骨盤回転運動」は仙腸関節をかいして{腰椎群+仙骨}で駆動する下半身作業です。
ホームポジションの下半身姿勢は関節の遊びが保たれ左右の回転運動のいずれにも移行できる「平衡姿勢」をとります。テイクバックでは「右股関節位置固定型骨盤右回転」を利用しますからテイクバックの始動姿勢(≒アドレス)の下半身は「右股関節位置固定型骨盤右回転準備姿勢」に、インパクトでは「左股関節位置固定型骨盤左回転」を利用しますからダウンスイング始動の下半身は「左股関節位置固定型骨盤左回転準備姿勢」になります。
ホームポジションでは関節の遊びの範囲内で(重要なインパクト側の)「左股関節位置固定型骨盤左回転準備姿勢」寄りの「平衡姿勢」をとるのが自然です。
テイクバックの腰椎群は右外側仙骨稜へ向かって右方移動しますから第1腰椎に接合する{胸椎群+頚椎群+頭部}は必然的に右方移動します。頭部位置を固定するには胸椎群機能を利用しますが、この場合腰椎群は右方移動の、胸椎群は左方移動の運動を協調させる難しい作業になります。この作業では胸椎群を側湾させない注意が必要です。
普通の大人のお勧めレシピ
テイクバックの胸椎群は腰椎群と頚椎群のツナギに徹して頭部は右方移動してもよいと割り切る。
移動する頭部姿勢バランスは頚椎群の頭部姿勢調節機能を利用する。



6・8 体重移動と深部感覚


身体の位置移動を伴う一般的なスポーツでは、姿勢変化に対応して反射的に全身の筋が適度に緊張し連続的な平衡を保っています。これを姿勢調節反射とよびますが(深部感覚の)位置覚に関連する全身の知覚が関係しています。
ここで身体のわずかな体重移動を可能にするために位置覚に関連した「位識点」という概念を設定します。
位識点:位置覚(深部感覚)で骨の一部(主に隆起)を感覚・認識した場合の呼称。
記載法 ≪A≫;Aを位識点として感覚・認識すること。
     ≪外後頭隆起≫;位識点が外後頭隆起であることを示す。
位識点シフト:位識点を連続的にシフトさせること。
記載法 ≪A→B→C≫; 位識点がA→B→Cとシフトすること。
―位識点シフトと姿勢調節反射―
全身の力を抜いた状態で起立し、≪外後頭隆起→隆椎→尾骶骨≫の作業を行うと体重分布が微妙に変化し姿勢バランスが保たれる姿勢調節反射が実感できます。
重量の軽いクラブ重心運動に対する小さな拮抗力を体重移動で獲得する方法です。



6・9 筋肉の収縮様式


 筋肉は基本的に関節を形成する複数の骨に接合し、その収縮により関節機能を実現しています。筋肉の収縮様式は筋力と外力(反作用)がつり合い、筋長を変えずに収縮する等尺性収縮と外部に対して仕事を行う筋長が変化する等張力性収縮に大別できます。
原理的には2つのフィラメント構造(アクチンとミオシン)が相互間に滑り込むことで筋肉収縮が起ります。このことは一度収縮した筋肉はフィラメント構造が相互間に滑り込む前の状態に回復しなければ、次の収縮ができないことを意味します。
ゴルフスイングのような短時間内に、とくに外部に対して仕事を行う等張力性収縮を利用する場合その筋肉を再度収縮させるには「回復時間」が必要です。ある筋肉の等張力性収縮は一回のスイングでは一回しか使えないことを意味します。「1アクション/1スイング」が基本です。



6・10 多関節連結構造の姿勢制御


 手元操作部(B-0)に関節(b-1~n)で連結体部(B-1~n)が結合し、最終連結体(B-n)に作業部が結合しているマジックハンドを想定します。
このマジックハンドがある目的作業を正確に行うには、最終連結体(B-n)の位置・姿勢が適切であることが必要条件です。(B-n)の姿勢制御を手元操作部(B-0)で行うには第一段階で関節(b-1)を決めて連結体部(B-1)の位置姿勢を決定します。この作業を(b-2~n)と(B-2~n)で順次くりかえすことで適切な(B-n)の位置姿勢が決まります。
また連結体部(B-3)にある仕事をすることで関節(b-4)を決めることを経由し(B-n)の姿勢を制御することも可能です。この場合は関節(b-3)にもある仕事をすることになりますから、関節(b-3~1)と連結体部(B-2~1)へと逆方向へ連動して手元操作部(B-0)の位置姿勢に影響することを意味します。(B-n)と(B-0)両方の位置姿勢の面倒をみることが必要になります。
スイングの作業部は前腕・手指です。最終連結体(B-n)の相当部は内肘(上腕骨内顆)です。上腕骨から逆方向に連結体を辿ってみます。
{上腕骨内顆 ο 肩甲骨 ο 鎖骨 ο 胸骨 ο 肋骨 ο 胸椎(脊柱)}
(ο)部は関節構造ですから、上肢全体としては多数の可動点(関節)をもつ多関節連結構造とみなせます。その仕事構造は、胸椎(脊柱)作業を起点にした内肘(上腕骨内顆)の姿勢・位置制御を基礎にして(上腕骨に連結する)前腕・手指が目的の仕事をすることです。
肩(肩甲骨付近)を操作することで上腕骨(内肘)姿勢をコントロールすることは肩甲骨と上腕骨が関節一個で隣接するために可能ですが、同時に胸骨 ο 肋骨 ο 胸椎方向への影響を理解し脊柱の姿勢制御を適切に行う必要があります。{肩甲骨 ο 鎖骨 ο 胸骨 ο 肋骨 ο 胸椎}をグループ化してスイング構築する理由です。