2・1 生物学的なヒトの特徴
現代のヒトは生物分類表で、動物界―脊椎動物門―哺乳綱―ヒト科―ホモ・サピエンス
に分類されています。
ヒトの運動様式は脊椎動物の基本骨格である脊柱に規定されるため、安定したゴルフスイングの確立には四肢運動にあわせて脊柱運動の分析が必要です。
2・2 ヒトの運動様式
ヒトは身体の骨格筋(群)を収縮させて運動しますが、筋肉(束)は原則的に隣り合う2つ以上の骨に接合しています。隣接する骨(群)は関節を形成するので筋肉の役割は収縮により関節機能を実現することと同値です。
これは身体運動を「関節機能を含めた骨群の位置関係の変化」に還元できることを示しています。
―関節の基本性質―
屈曲筋Aと伸展筋Bで構成される屈曲型関節モデルでの思考実験です。
屈曲準備状態では筋Aと筋Bの収縮力が等しい平衡状態ですが、関節屈曲時には筋Aが収縮し、筋Bが弛緩します。
再度の屈曲には筋Bが収縮、筋Aが弛緩し平衡状態が復元される必要がありますが、この場合、筋Bは緩徐に収縮することが重要です。筋Bが急速に収縮すると関節が平衡状態を通りこして伸展側に「きまってしまう」からです。
一般的に関節は機能筋(収縮筋)と拮抗筋で平衡状態を保ち、機能筋で関節機能を実現します。再度の収縮には緩徐な拮抗筋の収縮で平衡状態を回復する必要があります。
短時間の1作業内に1つの関節機能を2度以上実現することは生理的に困難なことを意味します。
ヒトの骨格は体幹骨格と四肢骨格に大別されます。
体幹骨格:
頭蓋骨;外後頭隆起が個別座標の原点です。
頚椎群{C 1~C7};環椎(C1)は後頭骨(頭蓋骨)と環椎後頭関節で連結しています。
(C7)の棘突起は明らかな隆起を形成するため (C7)を隆椎とよびます。
頚椎群の機能は胴体部の運動が頭部に与える影響を軽減し安定した頭部位置を確保することです。
腰椎群{L1~L5};仙骨に連結、上半身の重量を支持します。
仙骨;骨盤の構成骨で腸骨と仙骨関節を形成します。左右の外側仙骨稜が重要です。
四肢骨格:胸郭、肩甲骨、上腕骨、前腕骨、手指骨群、骨盤、下肢骨群、足骨群
2・4 体幹骨格と体幹姿勢
―頭部支持様式―
頭蓋骨は第1頚椎(環椎:C1)と環椎後頭関節を形成します。環椎(C1)の左右二対の平皿状の関節面で頭蓋骨底部の半球上の後頭顆を支えています。
{外後頭隆起と環椎後頭関節}全体を一種のヤジロベーと見做すことができます。
―脊柱―
脊柱は多数の脊椎骨が重なって形成されます。脊椎骨は椎体の後方に棘突起、左右に横突起と呼ばれる突起を有します。上下に重なる脊椎骨は関節を形成しています。この関節は回転型と屈曲型の2種類の関節機能をもちます。
基本構造:{胸椎群 ο胸郭 ο鎖骨 ο肩甲骨 ο上腕骨 ο前腕骨群 ο手骨群}
胸椎から手骨群は関節構造(ο)で連結されています。複数の可動点(ο)があるため運動様式は複雑です。
鎖骨に連結した肩甲骨が胸郭上に乗っかる形態から、肩甲骨は胸郭上の一定範囲で滑り移動が可能です。
モデル装置を想定し運動様式を整理します。
上面に取手を装着し下面が凹面の木製の落し蓋と長短2本の柳小枝を想定します。
長短2本の柳小枝が直交する形態で落し蓋に連結し、自由端にリング構造を接続した装置を想定します。短い小枝側のリングを中心棒に通し竹篭の左右に落し蓋を乗せ、長い小枝側のリングを紐で連結します。
木棒で支えた竹篭上で左右の落し蓋を滑らせ連結リングの位置を移動させる思考実験です。
連結リングを移動させるには①左右の落し蓋を同時に竹篭上で滑らせる、②左(右)を固定し右(左)を竹篭上で滑らせる2通りの方法があります。
連結リングの移動位置を制御する観点から①法よりも②法が安定です。
中心棒を脊柱に、竹篭を胸郭に、短柳枝を鎖骨に、落し蓋を肩甲骨に、落し蓋の取っ手を肩甲棘に、長柳枝を上・前腕に、連結リングをグリップに対応させ{胸郭 ο鎖骨 ο肩甲骨}の運動様式を整理します。
肩甲骨の位置固定の指標は菱形筋、肩甲挙筋、棘上筋、棘下筋が集中する肩甲棘三角です。
【左右滑動型肩甲骨運動】:
位置固定の指標は右肩甲棘三角です。右肩甲骨を位置固定し、左肩甲骨を胸郭上で回転滑り運動します。テイクバックに関連します。
左肩甲骨の位置固定の指標は左肩甲棘三角です。左肩甲骨を位置固定し、右肩甲骨を胸郭上で回転滑り運動します。インパクトに関連します。
2){肩甲骨、上部胸椎、頚椎、上腕骨}の機能
肩甲骨と上部胸椎、頚椎、上腕骨の相互作用に関係する重要筋群の検証です。
右肩甲骨に付着する重要な筋群は次の3群です。
ⅰ;第6・7頸椎と第1~4胸椎から起こり肩甲骨内側縁に付着する菱形筋
ⅱ;第1~4頸椎と肩甲骨上角中心に分布する肩甲挙筋
ⅲ;肩甲棘の上下窩と上腕骨に分布する筋群(棘上筋、棘下筋)
ⅱ)群筋の本来の機能は肩甲骨を上内方に引くことですが、右肩甲棘三角を位置固定すると第1~4頸椎の右側線がきまります。
3){上腕骨、前腕骨}の機能
上腕骨と前腕骨は肘関節で連結されています。
肘関節は上半身の機能状態と関連したクラブ支持様式に重要な役割をもちます。
上半身の機能状態を「巧緻作業」に適した状態に保つように肘関節のクラブ支点として内肘(上腕骨内顆)を利用します。
4){手骨群}
拇指と他指の対向性からみた把持様式:
拇指先端⇔2指先端
拇指球 ⇔3指先端
拇指球 ⇔4指先端
第5指には拇指の(明確な)対向領域が設定できません。
小指丘 ⇔5指
※小指丘と共同して対象物との接点(把持支点)を形成します。
―下半身姿勢の制御―
扇部形態が五角形の団扇状の板(P)と扇部形態の空隙をもつ大きい板(Q)で関節モデルを想定します。(P)の柄部を操作することで(Q)の単純な姿勢制御が可能です。
このモデルでは(P0)、(Ph)、(Q)のより複雑な姿勢制御が可能です。姿勢制御の指標は(P0)内の2つの作用点と(P0)&(Ph)が作る関節構造の両端の4点です。
第5腰椎と仙骨は関節で連結し、仙骨と骨盤は仙腸関節とよばれる関節を形成しています。
団扇・板モデルで扇部に設定した2つの作用点を左右の(外側仙骨稜)に、柄部の両端をL5腰椎の左右横突起に対応させると腰部と骨盤の姿勢制御モデルに相当します。
{腰椎群、仙骨、骨盤}群の運動様式は(L5腰椎横突起)と(外側仙骨稜)との位置関係に規定されます。
3)ドーナッツ・スティックモデル
円形ドーナツの左右に2本のスティックを挿したモデルを想定します。スティックでドーナツ体を回転させる様式としては、2本のスティックを捻りながらドーナツ体を回転する様式①、片方のスティックの刺入部を位置固定し他方のスティックでドーナツ体を回転する様式②があります。
4)骨盤、大腿骨、ケイ骨&ヒ骨、足骨群
腰部から足までの骨群は、{骨盤ο大腿骨ο(ケイ骨&ヒ骨)ο足骨群}で構成されています。この骨群の最重要機能は骨盤の回転運動です。連結部の股関節、膝関節、足関節は可動点であり下肢を構成する多数の骨と複数の可動点を個々に制御するプログラムは複雑です。
ドーナッツ・スティックモデルのドーナツ体を骨盤に、スティック刺入部を股関節に、スティックを大腿骨以下に対応させます。
「4軸スイング」で利用する骨盤回転運動は様式②に相当し、「片側股関節位置固定型骨盤回転」とよびます。ポイントは支点となる股関節の位置固定です。
{大腿骨、(ケイ骨&ヒ骨)、足骨群}の機能は「片側股関節位置固定型骨盤回転」を支えるスティックに対応します。必要時に股関節を支えられるように連結部の膝関節と足関節が適切に「きまる」必要があります。
股関節の関節タイプは「球関節」であり、回転運動以外では「片足で休め」で代表される屈曲運動も可能です。
日常生活では骨盤の回転運動機能より屈曲運動機能を利用する頻度が多いので、骨盤回転運動に比して安定性・再現性が劣る「屈曲運動」をスイング構造に組み込まない注意が必要です。
5)足骨群
足底の加重位置はスイングフェーズによって変化しますが、加重位置変化は「回転軸・補助軸の作業」と「片側股関節位置固定型骨盤回転運動」を通じて制御します。
2・5 クラブ支持様式
左5指*小指丘が協同してグリップエンドを支持しクラブの運動支点を設定します。
左4指*拇指球と右4指*拇指球でクラブを把持します。
クラブの全体重心がシャフトを含む垂直面上に位置することが条件で、このクラブ把持様式を「クラブ平衡姿勢」と呼びます。
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